SKULL BORN スカルボン
2010年の6月に書いた、骸骨モチーフの話。
誰が読むわけでもないだろうけど置いておきます(笑)
本編
夜。
高層ビルの屋上から街を見下ろす影があった。
「この街と・・・いや、この世界と・・・・・・天秤か・・・」
悲しそうに空を再び仰ぐその顔は、紛れも無い骸骨だった。
黒く沈む目に当たる空間には赤い光が灯っていた。
風は強く、纏ったマントを翻す。
冷たく強い風。
まるで、この先の運命を暗示するような。
骸骨を持った体はそのままビルから飛び降りた。
マントが翻り、風に張り付く。
地面に着地した時、男は言った。
「この世だけが全てじゃないさ」
赤く灯る光は強さを増し、
翻ったマントはまるで意志を持つかのように空間に揺らめいていた。
そう、彼こそがーーーー
この街、衛列木区を守るヒーロー。
「スカル・ボーン」その人だ。
『カランカラン』
全身傷だらけの体を引きずって、青年が喫茶店に入って来た。
「もう!ギコ!あんた何をすればそんな体になって帰ってくんのよ毎度!!」
細身の女が開口一番男を詰る。
「しょーがねーだろ、売られた喧嘩は自動的に買っちまうんだよ、体が!マスター・・・エスプレッソー、ダブルでー」
「はいよ」
「マスター、いつまでそれ付けてるんだ?」
渋めに装うマスターの髭は、実は付け髭である。
「ちょ、おまえギコ!!それは言うなって言ってるだろ!!」
マスターは髭が薄く、それが少しコンプレックスらしい。
男の名前は真崎ギコ。
年齢は26歳。
中途半端な長さの黒い髪に、黒目の服装。
愛煙する煙草はハイライト。
カチッ・・・
ジジッ・・・・・・
煙を肺まで深く落とし込んでから、吐き出す。
「・・・・・・っ!!」
肋の辺りが軋む。
「アンタそれ、内蔵までやられてんじゃないの??」
女の名前は、馬寺みなも。
年齢は28歳。
喫茶店のバイトだ。
髪は少し長めで、店に出ている時はいつもポニーテールである。
ギコの幼なじみだ。
「うるっせーなぁ、毎度毎度、この件についてはつっこまなくていいって言ったろ?意地があるんだよ、男の子にはな」
「あんた、今年で何歳よ?」
「・・・・・・」
そう言う事じゃねぇんだよ、とギコは頭を抱えた。
「ちょっとアンタ!!左腕の傷!!酷いじゃない!!」
黒い服で良く見えなかったが、血が沁み出している。
もうすぐ床に落ちそうなくらいだ。
「あ、ごめん、マスター、タオル貰っていい?」
「お前、ホントにそんな事ばっかりやってたら・・・・・・いつか死ぬぞ?」
奥からタオルを取りながらマスターが言う。
「サーンキュ、・・・あるでしょー?マスターにだって引けない時がさ」
そう言って、屈託なく笑う。
「お前は、それが多すぎるんだよ・・・みなもちゃんだって、気が気じゃないみたいだぞ?こんなにかわいい将来の嫁さん、悲しませるんじゃないよ」
『誰が嫁だって!?』
ギコとみなもは口を揃えて言った。
「息、ぴったりじゃないの」
『・・・・・・・・・』
二人とも頭を抱えた。
実際、二人がお互いに好意を持っている事は周知の事実だったが、
二人にこれと言った特別な関係はなかった。
強いて言うなら、「幼なじみ」が一番特別なファクターだろう。
お互いに彼氏彼女がいる時期もあるが、それでも付かず離れず・・・・・・
が、お互いにその感情を伝える事はしてこなかった。
(左腕の・・・大きな傷・・・・・・)
みなもは思考を巡らせた。
(まさか・・・ね)
ピンピロピンピンピロピロピロピロ・・・♪
「はい」
電話に出た瞬間、ギコの表情が曇った。
「わり、マスター、ダブルなのにシングル分しか飲んでないけど・・・ごっそさん!」
「ギコぉ・・・・・・また喧嘩かぁ・・・・・・?」
「しょーがないのよ、ウチのチーム、オレがいないとからっきしでさ」
少し遠くを見ながら口角だけ上げる笑顔は、ギコの癖だ。
「行ってきます」
「あ・・・・・・!ギコ!!」
思わずみなもは声をかけていた。
「あーん?」
振返らず、気怠い返事だけが返ってくる。
「・・・・・・あの・・・気を・・・付けてね」
「サーンキュ」
みなもの中に渦巻く疑念は、吐き出されずにしまわれた。
その疑念が真実ならば、それほど重大な事は無い。
そして、ギコは・・・・・・。
「・・・・・・ギコ・・・。」
喫茶店を出たギコは、バイクに乗り込んだ。
「・・・・・・飽きもせず毎度毎度・・・・・・っ!!!」
バイクを奔らせながら、ギコは叫んだ。
「ボーン!!!!」
その瞬間、バイクごと黒い何かに覆われ、覆われた何かが次第に形を成して行く。
風に翻る長いマント。
銀とも白とも言い難い、骸骨のマスク。
マスクと同じ色と黒で構成されたボディークロス。
黒い空間の奥には、赤い光が灯っていた。
そう。
スカル・ボーンだ。
「いっくら回復がちょっと早いからって・・・・・・左腕はまだ本調子じゃねぇか・・・・・・」
バイクを止めた先では、既に何者かが・・・・・・
何人かを殺めていた。
何かの工場跡だろうか。
「遅かったなぁ、スカル。暇すぎて暇すぎて・・・・・・何人か殺っちまったよ」
「貴 様 ぁ ・・・!!!」
黒ずんだ体に無数の腕。
地球上の生物で言えば、蛸に似ているだろうか。
「お前、この間アクシュア様を手こずらせたんだって?」
「ああ?・・・・・・ああ、あの気味が悪いお前の所のトップか」
「ふ、我がdeathnd(デスンド)をコケにするのもいい加減にしろ・・・もうお前には後が無いんだよ」
「テメェらみたいな雑魚ばっかり出て来ても、屁でもねぇよ・・・・・・流石にそのアクシュアとやらは段違いみたいだけどな・・・・・・」
「笑わせてくれる!貴様などこのオクト様だけで十分だ!!!」
「うるせぇよ蛸野郎。お前を殺した所で死んだ人は戻ってこねぇんだ・・・・・・
さっさと来い!!」
バッシュ!!!
伸びた無数の腕がスカルに巻き付く。
「くっ・・・・・・・・・」
「どうしたぁ?余裕じゃなかったのかぁ??」
「うる・・・せぇよ・・・!!」
バシッ!!!
スカルは無数の腕を振り払った。
かのように見えた。
ブンッ・・・!!!!!
その瞬間、スカルは吹き飛ばされた。
「何っ!?」
そう、左腕に絡まった腕を完全に振り払えていなかったのだ。
ドッガァァァァァァぁぁ!!!!
スカルが工場の壁面にめり込む。
「くっそ・・・・・・思ったよりも・・・・・・厄介だ・・・・・・ぞ・・・・・・」
「残念だったなぁ、痛むか?アクシュア様にやられた左腕が!!!」
「さっきっから・・・・・・うるせぇよ・・・・・・!!」
瓦礫の中から立ち上がったスカルは、
目を赤く光らせた。
「お前ごときに使ってやれる時間なんて・・・・・・」
右拳を上げる。
「そうないんだよっ!!!!!!」
右拳を地面に叩き付け、その衝撃で大きく飛び上がった。
「トルネイド・・・・・・リヴ!!!」
肋のクロスが大きく開き、爪のように前に迫出す。
「うおおぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉ!!!!」
大きく開いた肋のクロスは、左右からオクトに刺さった。
「・・・・・・な・・・・・・に・・・・・・!?」
「そろそろ終わりだ・・・」
「ふははははは、まだまだだ!まだまだ強いヤツらがお前を殺しにくる!!!
いいか、我々にももはや猶予はないのだ。アクシュア様は、本気になられた!地球など・・・・・・一瞬だ!!!」
「さっさと逝け、雑魚」
かぎ爪のようになったクロスは左右に大きく開き・・・・・・
オクトをそのまままっ二つにした。
ブッシャぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!!!!!
血液のような物がそこら辺に飛び散る。
肋のクロスは元に戻り、
スカルは静かに勝ち名乗りを上げた。
ガクッ。
左膝が折れる。
「・・・・・・くっそ・・・・・・血・・・・・・流しすぎた・・・・・・こんな時にアイツが来たら・・・・・・保たねぇぞ・・・・・・」
現実は時として、
ドラマよりも酷な展開を見せる物だ。
空間に突如として闇が沁み出し、
色を変えながら徐々に形を成し始める。
白い闇。
そう言って相違ないだろう。
美しく整ったマネキンのような造りの顔。
白から黒のグラデーションが目まぐるしくうねるボディー。
頭髪のような物は無く、体から沁み出す黒い闇が、所々を覆っている。
完成された美のようなしなやかな曲線。
それはまるで、女性を彷彿とさせた。
「スカル・ボーン、もう無駄だと悟れ」
「意地があるんだよ・・・・・・男の子なんでね・・・・・・」
「・・・・・・」
「トップのアンタが出て来るなんて、そうとうそちらも余裕が無いんだな」
「お前には関係のない事だ・・・・・・が、冥土の土産に教えてやろう。
残念な事に我が母星の寿命はもう尽きかけているのだ・・・・・・それが何を意味するか判るか?」
「さぁな、あんたらが家無しで暮らせば済むんじゃないのか?」
「・・・・・・こう言った茶番は、もう終いにすると言うことだ・・・」
スカルは、立ち上がり、両足で踏ん張った。
「そうか・・・・・・ちょうどいいじゃないか。オレも飽き飽きしてた所だ、この茶番には・・・・・・!」
スカルのマントが猛々しく翻る。
黒いくぼみの奥の赤い灯火は、一層強く光った。
「ぉおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおお!!!!!!!」
両手を天にかかげ、光を集める。
「ふっ・・・・・・そんなレベルのもので・・・・・・私をどうにか出来るとでも?」
両掌で胸の前に丸い空間をつくり、その中に闇を渦巻かせる。
渦巻く黒い闇は増大し続け回転力を増して行く。
スカルは、悟っていた。
このままでは、勝ち目は無いと。
「うぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉ!!!!!!!」
輝きが太陽と等しくなる!!
「ライトニングッ・・・バックボーーーーーーン!!!!!!!!」
大きく一筋の光が、アクシュアに降り掛かる。
「あわれだな・・・・・・傷んだ左腕に依って・・・全力にすら届かないとは・・・・・・」
「ダーク・スクリュウ」
アクシュアは静かに言った。
手の中から解放された闇は、
ものすごい速度で渦巻き、空間を歪めながら光を呑み込み始めた。
すさまじい光と闇が、お互いを食い尽くそうと暴れ回る。
「私の星の為に、滅びてくれ。地球人、そしてスカルよ。」
「オレは・・・死ぬわけにはいかないんだよ。地球の為に、愛する人の為にっ!」
その瞬間に、アクシュアの手が一瞬緩んだかに見えた。
その一瞬を、スカルは見逃さなかった。
「ライトニング・・・スピーナルコードぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉ!!!!!!!」
まさに、全身全霊だった。
バッシュゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥッッッッッッッッ!!!!!
光は闇を食らい、更にその先のアクシュアを襲う!
しかしアクシュアは、一瞬でその光を新たな闇で打ち消した。
・・・が。
ザシュ・・・・・・。
相殺しきれなかった光が、アクシュアの背中に深く刺さった。
「ぐぅっ・・・・・・不・・・覚っ!!!」
アクシュアは闇を発し、それに溶け始めた。
「・・・・・・今はその命、残しておいてやろう・・・・・・だが・・・再び私の前に現れた時は・・・・・・命は無いと思え・・・・・・」
「・・・・・・」
アクシュアの姿形が無くなった後、
スカルは静かに倒れ込んだ。
(・・・・・・く・・・・・・そ・・・・・・あれが効かないとなると・・・・・・オレに勝ち目は・・・・・・)
そして、気を失った。
数時間後に目覚めたギコは、ある所に立ち寄る決心をした。
スカル・ボーンと始めて出会った、山奥の祠に。
しかし、全身全霊の力を使い切ったギコの体は、
もはや限界を疾うに過ぎていた。
藁にもすがる思いで祠に着いたギコは、
祀られていると思われる祭壇の大きな石の上に、スカル・ボーンの核である、
『borne』を置いた。
-二年前。
ギコは夢を見た。
その夢の中には不気味な骸骨が立っていて、
この星が何者かに侵略され始める事を暗示していた。
それが何者なのか、どういった方法で侵略するのか、などは判らなかったが、
星の危機が迫っていると言う事と、その侵略に対抗しうる力を与えると言うメッセージだけは伝わって来た。
その夢の通りに山奥の祠にやってくると、
祭壇の上に『borne』が置いてあったのだ。
そして、その上に揺らめく骸骨が浮かんでおり、
夢の内容を再び説明し、力を託して消えて行った。
「これは地球と言う星の意思だ。何億、何兆と死んで行った命達の魂の祈りだ。
この星を、この星以外の者達に明け渡してはならない。絶対に」
そこでギコは『borne』と、人の数倍回復力の上がった肉体を手に入れたのだ。
ほどなくして、deathndの地球侵略が始まった。
以来、ギコはスカル・ボーンとして地球を守って来たのだ。
傷ついた『borne』から、再び骸骨の姿・・・いや、スカル・ボーンの姿が浮かんで来た。
「わかっている」
「ああ、オレはもう限界だ。このままじゃあいつらに・・・・・・dethndに地球を取られちまう・・・」
「・・・方法は、既に一つしか残っていない」
「・・・・・・あるのか!?」
「ああ・・・・・・しかし・・・・・・」
「なんだよ!!」
「お前の命が確実に削れ行く。この星を守るためとはいえ、それを我々は無理強いしない」
「・・・・・・ヴァカじゃねぇのか!?オレが生きてたって・・・・・・みんながいなけりゃ・・・・・・地球がなけりゃ・・・・・・みなもがいなけりゃ意味ねぇだろ!?」
「オレの命一つくらい、この星の為にくれてやらぁ!!!!!」
「・・・・・・・・・そうか・・・・・・・・・では・・・・・・・・・」
その瞬間に目映い赤い閃光が辺りを包んだ。
「箍を外せば、限界を超えた力を発揮できる。だが、いいか。」
「いいんだよ、その先は」
「お前の命は・・・・・・」
「あるだろ、おっさん達にもさ、引けない時ってのが・・・それに・・・・・・もう掛かっちゃってるじゃねぇか、オレの双肩に」
「・・・・・・」
「借りてくぜ、『borne』。アンタらの魂と一緒に」
「・・・辛い思いをさせるな・・・・・・」
「ギコ様を、なめるんじゃないよ!」
ギコは、屈託なく笑った。
辺りは、もう真っ暗になっていた。
ギコは、再び悟った。
次が、最後の戦いであろう事を。
おそらく、自分の命はそこで尽きるであろう事を。
ならばせめて・・・・・・
ギコは、いつもの喫茶店に寄った。
『カランカラン』
「ギコ!!何やってたんだよ!!!!」
「あーん?なんだよ酷い剣幕で」
「お前がいない間に!みなもちゃんが!!みなもちゃんが!!!!」
「・・・・・・・・・あ?」
見ると、気丈にコーヒーを運んでいるみなもの背中の、衣服の下に痛々しく、しかも大きく包帯が巻かれている。
「やだなぁ、マスター、大げさなんだから!」
「みなも・・・・・・それどした・・・??」
「あ・・・・・・ちょっと・・・・・・・・・・・・・・・そうそう!車に当てられちゃって!」
「ちょっと見せてみろ!!!!」
「やだ、ちょっとギコ!」
ギコはみなもの背中の傷を見た。
鋭い何か出来られたような傷。
その周りには酷い火傷が・・・・・・。
(これじゃまるで・・・・・・・・・!)
「ホントアタシ、ついてないのよねー、最近」
「みなも・・・・・・おまえ・・・・・・」
「何よ、暗い顔しちゃって!大けががアンタだけの専売特許だーとか言わないでしょうねー?」
「・・・・・・マスター、エスプレッソ、ダブルで。」
「また残してくんじゃねぇのかー?」
「・・・・・・いや、ちゃんと・・・・・・飲むよ。」
ギコは出されたエスプレッソを、複雑な気持ちで味わって飲んだ。
「さ、てと・・・・・・」
「なんだ、もう行くのか?」
「ああ、待たせてる相手がいるんでね」
「何だお前!こんな状態のみなもちゃんを置いてデートにでも行くつもりか!」
「ヴァカ、そんなんじゃねぇよ」
ギコは笑った。
「みなも」
「何よ」
「怪我・・・・・・お大事にな」
「あははは!なによ、らしくもない!」
少し笑って、そのまま静かになった。
「ギコ、アンタも・・・・・・気をつけてね」
「ああ、大丈夫、いつものことだ」
『カランカラン』
店を出て、ギコは街中を見渡せる高層ビルに向かった。
「この街と・・・いや、この世界と・・・・・・天秤か・・・」
悲しそうに空を再び仰ぐその顔は、紛れも無い骸骨だった。
黒く沈む目に当たる空間には赤い光が、決意を新たにしていた。
風は強く、纏ったマントを翻す。
冷たく強い風。
まるで、この先の運命を暗示するような。
骸骨を持った体はそのままビルから飛び降りた。
マントが翻り、風に張り付く。
地面に着地した時、ギコは言った。
「この世だけが全てじゃないさ」
赤く灯る光は強さを増し、
翻ったマントはまるで意志を持つかのように空間に揺らめいていた。
目指すは時限を越えた敵の本拠地。
そこで暴れれば、必ず・・・・・・
必ずアクシュアは・・・・・・
必ず・・・・・・は・・・。
時限を越える力は、先の祠で手に入れていた。
いや、以前まではその力があった所で、何処まで闘えていたか判らないのだ。
一瞬体が赤く光り、時空の切れ目から本拠地に乗り込む。
雑兵達を千切っては投げ、
雑魚どもを引き摺り回し、
幹部連中も新たな力で薙ぎ倒す。
無心。
そう。
ギコは無心だった。
どうしようもない感情の矛先を戦いに向けていたのかもしれない。
理由など判らない。
ただ、現実は余りに酷なのだ。
一つだけ解っている事は、
自分が負けたら、死んだら、地球はdeathndの手に渡る、と言う事だけだ。
負 け ら れ な い 。
何 が あ っ て も 。
そうして、魂を削って戦いを続けているうちに、
目の前に闇が沁み出して来た。
「来たか。」
「・・・・・・スカル、言っただろうに。」
「ああ。」
「私は星の為に、負けるわけにはいかないのだ」
「そうか、奇遇だな。オレもこの星の為に、人間の為に・・・・・・負けるわけにはいかないんだ」
「解っているんだろう?お前が私に勝てない事が」
「・・・・・・いや、先とはちょっと状況が違ってね、少しは勝算があるんだよ」
「そうか・・・・・・残念だよ、非常に」
「・・・・・・オレもだよ」
スカルは、天に両腕をかざす。
そして、光を集め始める。
「全力だとしても、私には届かない光だよ・・・」
アクシュアは両掌で胸の前に丸い空間をつくり、その中に闇を渦巻かせる。
渦巻く黒い闇は増大し続け回転力を増して行く。
「うぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉ!!!!!!!」
輝きが太陽と等しくなる!
「ライトニングッ・・・バックボーーーーーーン!!!!!!!!」
「叶わぬか、この願いも・・・ダーク・スクリュウ」
アクシュアは虚しそうに呟いた。
手の中から解放された闇は、
ものすごい速度で渦巻き、空間を歪めながら光を呑み込み始める。
再び、すさまじい光と闇が、お互いを食い尽くそうと暴れ回る。
先の戦闘よりも、何倍も、何倍も。
「私の星の為に、滅びて・・・スカル・・・」
「だからオレは・・・死ぬわけにはいかないんだよ。地球の為に!」
アクシュア纏っていた闇が、払われ始める。
マネキンのような顔には血の気が差し、空間だった眼球には瞳が入った。
「あなただけは救いたかったのに」
「・・・やっぱり・・・お前・・・」
ギコは、違和感を既に感じていた。
幼い時の記憶の中で、一部分どうしても思い出せない所がある。
鮮明に覚えていていい筈の出会の記憶。
それがとても曖昧で、思い出せないのだ。
「あなた一人なら、あなた一人なら一緒に・・・・・・生きて行けると思ってた!」
「・・・・・・そんなこと・・・・・・オレが望むとでも・・・・・・?・・・」
アクシュアは、悲しげに続けた。
自分が異星人だということ。
幼少の頃に潜入捜査として地球に送り込まれ、
それからしばらくは人間として生きて来た事。
そして、二年前、ついに星の寿命が尽き始めている事が解り、
進行を本格的に押し進める事になった事。
「スカル・・・あなたとは本当に長い付き合いになりました・・・私の星は、もう長くありません。私の星の民が生き続けるためには・・・・・・地球人を殲滅しなければならない・・・・・・負けられないの・・・」
アクシュアの瞳から、涙が流れた。
「アクシュア・・・・・・オレも負けられないんだよ。地球の為に。大好きな喫茶店の為に。大好きな・・・・・・お前といた地球の為に」
「悲しいけれど、これが運命ですね・・・・・・ダーク・コア」
アクシュアが静かに放ったその言葉で、
闇がうねりを増し、光を食いつくした。
そして・・・・・・・・・
スカルを吹き飛ばした。
吹き飛ばされ、意識が飛んだ瞬間にギコは白昼夢を見た。
どこか、違う世界。
どこか、違う国。
何もかもが平和で、
世の中を侵略して来る物なんて、人間くらいしかいない世界。
そこで、ギコはみなもと暮らしていた。
他愛も無い事で笑い、
他愛も無い事で泣き、
愛し合う。
幸せを共有する。
何より・・・
今の世界と違い、二人とも地球で生まれ、生きている。
それは、自分の先にも有り得た未来。
選び得た選択肢。
(そうか・・・・・・もしも・・・もしもやっぱり・・・)
((この世が現世だけじゃないとしたら・・・))
(みなも?)
((この世が現世だけじゃなく来世や前世もあったとするなら))
(それを信じるとするなら)
((可能性があるなら・・・))
(オレは)
((アタシは))
「お前を」
「あなたを」
『倒す!』
一瞬。
ほんの一瞬だったろう。
だが、ギコの頬には涙が伝っていた。
(体は・・・・・・まだ動く・・・・・・か!)
スカルは、瓦礫の中から這い上がり、凛として立った。
マスクは既に崩れ、地面に落ちていた。
「引けない時って、女にもあっただろ?」
「そうね・・・・・・」
しかしスカルは、既に満身創痍以外の何者でもない。
体中が軋み、細胞の一つ一つが悲鳴を上げている。
「さぁ、此処からが真骨頂だ。」
「・・・」
「ボーン・バーーーーーストォォォォォォォ!!!!!!!!!」
ギコの体の内側から赤い閃光が漏れ出し、揺らめく。
まさに魂の、命の光。
ギコの魂の結晶。
悲しく綺麗な、最後の光。
「うおぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉ!!!!!!!」
右手に光を集めながら走り出す。
目映い、綺麗な光。
「ダーク・スクリュウ」
アクシュアは、掌から小さな闇を発した。
闇は大きく広がりながら、ギコを襲う。
「ブラッドォォォォォォ・・・バックボォォォォォォォォォォォン!!!!!!」
剣のように伸びた赤い閃光が、闇を切り払う。
アクシュアは、一瞬で闇の剣を出現させ、閃光を振り払う。
ガッッッッッ!!!!
お互いが両腕で組み合った。
「さよならだね、ギコ」
「・・・・・・ああ。」
ギコは、それが最後の力だと、
最後の灯火だと、自らで感じていた。
「うおぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉ!!!!!!!!」
「はぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!!!!!」
ギコの腕から猛々しい炎にも似た赤い閃光が、
アクシュアの手から暗い暗い深淵の闇が、
迸る!
そして、全身全霊を賭したギコは、気がついてしまった。
それでも、どうしても、自分の力が少しだけ及ばない事に。
だが、諦めるわけにはいかなかった。
そう。
地球の為に。
自分の為に。
・・・みなもの為に。
「うおぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉ!!!!!!」
「はぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁっ!!!!」
刹那。
ザッシュゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥ・・・!!!!!!
組んでいた筈の右手が外れ、ギコの右腕はアクシュアに深く突き刺さっていた。
「・・・・・・!!!!!」
驚いたのは、ギコの方だった。
「っ・・・・・・!なんで・・・・・・!!!」
「・・・・・・ギコ・・・・・・ありがとう。ちゃんと向き合ってくれて。」
「おまえっ!!!!!」
「言っちゃダメだよ、台無しになっちゃう。男の子には、意地があるんでしょ?」
「・・・・・・・・・!!!!」
アクシュアの頬には大粒の涙が次かが次へと流れていた。
ギコの頬にも、同じくらい涙が流れていた。
「奥にある、人間の心臓と同じ部分にある、アタシのコアを潰して。」
「そんなことしたら・・・!」
「そうするしか無いの。この世界を保っているのはほとんどがそれに依る物だから・・・・・・それを潰せば、私達の世界から地球への干渉はできなくなる」
「・・・・・・わ・・・か・・・った・・・・・・!!」
ギコは、嗚咽を堪えながら、必死で応えた。
涙は、留まる事を知らず、流れ続けた。
それはまるで、来世の分も流し切るくらいに。
アクシュアは、にっこり笑った。
「ありがとう。」
ギコは、アクシュアに口づけをした。
最初で最後の。
涙と血で塗れた、最初で最後のキスを。
ギコは、潰れそうになりながら、精一杯笑った。
「ありがとう。」
「じゃあ、またね。」
状況に似つかわしくない、最高の笑顔。
「みなもぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉ!!!!!!!!」
ブシャッ・・・。
「じゃあ、また来世。」
ギコは、笑った。
次の瞬間、ギコは意識を失った。
次に目を覚ますと、喫茶店で寝ていた。
「おー!目を覚ましたかー!」
「・・・?」
体中が悲鳴を上げている。
しかし、外傷の類いは殆どなくなっていた。
「ビックリしたんだよ、お前血まみれで店の前に倒れてるから!」
手の中には、『borne』がにぎられていた。
「そうか・・・・・・オレだけ・・・・・・」
「そうだ、みなもちゃん!いなくなっちゃったんだよ!!『お世話になりました』って置き手紙だけ残して」
「・・・・・・そうか・・・・・・」
「みなもちゃん・・・・・・どこいっちゃったんだろうなぁ・・・・・・」
「・・・・・・。」
「お前、幼なじみがいなくなったってのに心配じゃないのか?」
「・・・きっとまた逢えますよ。」
「・・・・・・?」
「マスターにもまた会えるといいなぁ」
「お前もどっか行くのか?」
「いや?」
「じゃあなんで。」
「来世の話。」
「来世ってお前・・・・・・・・・あははははははははははははは!!!」
マスターはギコを指差して笑った。
「あははははははははははははははははははは!!!」
ギコも負けじと笑った。
『あはははははははははははははははははは!!!』
「あ、マスター、髭、髭!」
「おっとっとぉい!・・・・・・でも、また会えるといいなぁ」
ずれた髭を必死で直す。
「・・・逢えるって。絶対に。」
「お前、世の中には絶対なんて無いんだよ」
「あるよ。絶対。」
「まーたお前の根拠の無い自信」
「結構当たって来たろ?」
「・・・・・・そうかぁ?」
それ以降、deathndからの侵略は、全くなかった。
deathndから、は。
スカル・ボーンはそれ以降も、
地球を守って戦い抜いた。
煙草に火をつけて
静かに空を見上げたギコは、
深く煙を落とし込んで誓った。
せめて精一杯、残り少ない命でも
みなもの分も生きようと。
そして、いつかの世で
きっと出逢うと。
そして、
太陽に微笑みかけた。
「きっと意味のない物語」-023 スカルボン-skull born-
-end
(original was 2010/06)